JUPITER 3
3group 7elements / 40.5x0.5 / 50mm f1.5

for Kiev

fig-1

for Fed / Zorki

fig-2

最近はソ連製レンズの研究が進んできて、工場別、年代別に語られることが多くなってきた

fig-1、1963年、ZOMZ、1950年KMZ、キエフマウント。
fig-2、1956年、BeLomo、1972年、ZOMZ、Lマウント。
fig-3、キエフマウントのレンズのコーティングを見る。上図のLマウントのようなグリーン系のコーティングは見られないがいくつか見た50年代製のなかにグリーン系は存在した。

コーティングは年代の目安になりそうなものだが、このレンズには適さないようだ。というのも、どこまでオリジナルなのかさっぱり判らないのである。
このレンズは一般にジャンクが多いとされるのだが、様々な年代のパーツを寄せ集めてしまったのではないか?と思われる個体もよく見かけるのだ。 無限遠が出ない、距離計リングが指標と合わないなどは、いかにも寄せ集め品めいてあやしいが、これがごく普通 に見られるジュピター-3なのである。

fig-3

重量はL-マウントは145g、キエフマウントは130g
いずれもアルミ鏡胴で、1950年製キエフマウントは少し重く165g、真鍮鏡胴のようだ。
いろんな意味で信頼できるのがキエフマウントのジュピター-3。

 

このレンズは黄変する、ごらんのとおり

 

Jupiter-3を透過して見る

これらは堀内カラーのライトビュアに置いてある。
右矢印に沿って(MMZ)56,58,(ZOMS)62,63,63(Kiev-ZOMS),72、右上はスカイライトフィルターでわずかにピンクに見える、また画像の加工でレンズ色つきはオーバーな表現になっている。

真ん中下の63年製はほとんど無色なのでこれを基準に見てみたい。

 

これで見ると年代が古いほど黄偏しているというわけではないが、これらが完全にオリジナルの状態であるという確証がない上、生産工場が違う点に留意。この例で見る限り、同じZOMS製63年製の2本が著しくレンズの着色量 が違うなど、どうとらえて良いものやら...。

これらは実はe-bayで5本セットで売りに出たものだ。一本あたり数千円(送料などは除く)、果 たしてこれらが使い物になるのか?
比較的人気のあるレンズなのでこの値段はあやしい、ようするにジャンクな可能性が高いと思っていたのだが以外ときれいなレンズだった。もっとも外観、レンズのコーティングは、上記にあるように寄せ集めの可能性は高いと思う。
問題は実写性能だが・・・。まず、無限遠が来ているのかどうか、これは実際カメラに装着してピントを見ることにする。
シャッターをバルブにして実際にピントグラス越しに覗いてみる方法でそれぞれ検証してみたい。

フ式緊縛2号 実用直視型検査機
*エキサクタのファインダーにはピントスクリーンがあらかじめ付いており便利。

5本のうち、一本を除いて無限遠はでていたが、ピントリングは一本を除いて全て位 置がずれていた。そして一本が若干拭きキズがあるものの完全品であった。

この絶妙な組み合わせはどうだろう、全部ジャンクでは怒り出すやも知れぬが、調整できそうな程度のもが過半数、そして一本はまともという、なんと商売上手な・・・。

これらピントリングのズレは、距離表示のある鏡筒を固定するネジ位置が個体ごとに違うことにある。ヘリコイド部分までばらして居るとは考えにくいので、ようするに違う個体のピントリングを付けてしまっているのだろうか?

これらバラバラなジュピター3を見ていてふと思ったのは「もしかするとレンズ硝子を均一に造る技術がなかったか、それとも均質にする概念がなかったのか?」このあたり、当時のソ連製を解く重大な鍵なのかも知れない。

 

ここで、ジュピター-3の(ソ連製レンズの大体もそうだが)構造を簡単に示す

おおまかに、2つのユニット(*fig-4)に分けられるのだが、手前のワッシャーリングがくせ者で個体ごとに厚みが違うようだ。ピントはこのワッシャーにかかっているわけで、無限遠がはなから出ていない個体はこれが換えられていると見ていいだろう。これはお手上げである。もちろん削ったり足したりという作業で(気が遠くなるが...)調整可能だが、コリメーターでもなければ現実的ではないと思う。

ジュピター-3のジャンクは、バラバラな個体を一つにしてしまったことが考えられるが、無限遠がでているレンズであれば、おそらく正常に距離計連動するので、ピントリングの表示ズレや、絞り環の向きを気にしさえしなければ実用上はさして問題ないかもしれない。ジャンクと言っても問題はこの程度でここのジュピター-3に於いては撮影上大問題があったものは(無限遠の出ないものは除外だが)無かったのであった。

こんなふうに集めたのは「年代別に写りの差」とは存在するのか?だったが、この一番重要で最も興味があった「年代別 に写りの差」は結局はっきり見分けは出来ないのであった。銀塩の粒子レベルまで拡大したり、チャートでボケ味を比較すればレンズごとの味を無理矢理発見することは出来るだろうが、これはあまり意味があるとは思えないし。

fig-4

ここより愚にもつかない思いでと試写

余談:カメラを少しいじった人なら、分解の手がはやってレンズのヘリコイド抜いてしまった人も多いだろう

これは一度やった人なら誰でも言うと思うが、ヘリコイドはいじりたくない部分・ナンバーワンであり、此処を抜いてしまうのは最後の最後の手段として通 常はさわりたくないところだ。
まあ、ナニが言いたいのかというと、この部分は下手を打つと取り返しの付かないことが多いのである。何度手をグリスだらけにしたことか。

一度失敗すると学習するものだが、うっかり抜けてしまったりする事も多いのだ。
嫌になって途中で放り投げて置いた事も何度もあるけれど、人間は不思議な能力があるもので、ある日突然、雷鳴のごとくひらめいてすんなり填ることもあるからすごい。

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1956"による

下図:1950による描写。
被写体を切り取ったようなポートレートなどで、このレンズのとろけるようなボケを知っていると以外だが、こういう近接ではわりとボケが固いというか、結構うるさい描写 に見える。
周辺部もちょっとだらしない感じだが、本来の性能が発揮できなかろう近接撮影だし、開放だしと、こんな使い方は可哀想だかも知れない。

jupiter-3ex.jpg 130KB

硝材の品質がよいとか、原料が豊富だからソ連のレンズは素晴らしいと語る人も多いが、金属加工に明るい人に言わせると鏡筒のアルミの材質も良いそうで、材料は問題ないし設計も、それこそゾナーそのものとすれば世界に冠たる一級品であるはず。
日本でも近年まで均質な光学ガラス製造には苦しんだと言うし、 キヤノンが色調を揃えたレンズをカタログや広告でアピールし出すのは1960年代、FLレンズの頃だ。
最近のソ連製(ロシア製)はこのあたりはどうなっているだろうか?

つづく03/03/011 ver.2.0 03/08/05 ver.2.01


 

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